今回のことば
きき‐かわ・す 【聞き交わす】 ‥カハス 他五
互いに聞きあう。互いにたよりをする。源氏物語(早蕨)「御ありさまは絶えず―・し給ひけり」
き・く 【聞く・聴く】他五
❶言語・声・音などに対し、聴覚器官が反応を示し活動する。
①耳で音・声を感じ取る。聴覚によって認識する。万葉集(5)「うぐひすの音―・くなへに」。「鐘の音を―・く」
②人の言葉をうけいれて意義を認識する。聞き知る。万葉集(20)「君が上はさやかに―・きつ思ひしごとく」。源氏物語(帚木)「寝たりける声のしどけなき、いとよく似通ひたれば、いもうとと―・き給ひつ」。「講義を―・く」
③人を通じて間接的に知る。伝え聞く。古事記(下)「そらみつ日本の国に雁子産むと未だ―・かず」。「彼は結婚したと―・く」「―・くところによると」
④聞き入れる。従う。許す。万葉集(3)「大君の任まけのまにまに―・くといふものそ」。「無理を―・いてもらう」
⑤よく聞いて処理する。読史余論「天下の事は後白河―・き給ひ信西いよいよ任用せらる」。「訴えを―・く」
⑥注意して耳にとめる。傾聴する。拾遺和歌集(雑)「松原ごしに鳴く鶴たずのあなながながし―・く人なしに」。「注意を―・く」
⑦(「訊く」とも書く)言葉をかけて答えや情報を求める。尋ねる。問う。源氏物語(夕顔)「忍び給へば、若君の上をだにえ―・かず」。「道を―・く」「都合を―・く」「己の胸に―・け」
❷(「利く」とも書く)物事をためし調べる。
①かぎ試みる。かぐ。浄瑠璃、浦島年代記「酒の香―・けば前後を忘るる」。「香こうを―・く」
②味わい試みる。狂言、伯母が酒「好い酒か悪しい酒か私が―・いて見ずばなりますまい程に、一つ―・かせて下されい」
③あてて試みる。なぞらえる。準じる。「広さを柱に―・いて戸を作る」
広く一般には「聞」を使い、注意深く耳を傾ける場合に「聴」を使う。
『広辞苑 第七版』
ことばからの気づき
今回は「聞く」ことと、「信心」の関係について味わいます。
浄土真宗では「聞く」ということを大切にします。それは親鸞聖人が、法然聖人からお聞きになった教えを、丁寧に伝えていてくださっているからです。しかも、ただ聞いたことをそのまま残すのではなく、そのお言葉をわが身に引き受け、依りどころとしていく中で、さまざまな書物(お聖教)に残してくださっているのです。
真宗のことば:もんそくしん 聞即信
浄土真宗における聞と信との関係のことで、聞くことがそのまま信心であり、聞のほかに信はないということ。第十八願成就文に「その名号を聞きて信心歓喜せんこと、乃至一念せん(聞其名号信心歓喜乃至一念)」とある中の「聞」と「信」について、親鸞は「信巻」に「聞といふは、衆生、仏願の生起本末を聞きて疑心あることなし、これを聞といふなり、信心といふは、すなはち本願力回向の信心なり」と述べ、また『一念多念文意』に「聞其名号といふは、本願の名号をきくとのとまへるなり。きくといふは、本願をききて疑ふこころなきを聞くといふなり。またきくといふは、信心をあらはす御のりなり。信心歓喜乃至一念といふは、信心は如来の御ちかひをききて疑ふこころのなきなり」と述べている。
『浄土真宗辞典』〔本願寺出版社〕
ことばを味わう
なぜ親鸞聖人は、法然聖人のお言葉をとおして、阿弥陀仏の願いの疑いなく聞くことができたのでしょうか。親鸞聖人は、「聴聞」を「ゆるされてきく、信じてきく」と味わっておられます。「ゆるされて」とは、認められていく、排除されないということです。阿弥陀仏の願いは、「一切の衆生を浄土に生まれさせ、さとりの身へと成らす」という誓いです。これはみんなが救われるとともに、私がどのような姿、生き方をしていようとも、仏さまは排除しないということです。そうした大きな慈悲の心をお聞かせいただいたときに、私の身に「そのはたらきに、そのまま従うほかない」という「信心」が起こるのです。
法然聖人のもとで、さまざまな境遇の人びととともに阿弥陀仏の願いを聞いていかれた親鸞聖人は、いつまでも、どこまでもわが身を摂めとって決して捨てることのない、大きな慈悲の心に出遇われました。だからこそ、「聞く」ことがそのまま「信心」なのですよと、お示しくださったのです。
今日のまとめ
- 「聞く」とは、信じ受け入れること
- 「信心」は、仏さまのお心に従っていく。